皆さまこんにちは。
ウォッチリペアコーナーの狩野です。
時計不具合の事例をご紹介し、それを回避するためにはどうしたら良いかを考えるコーナーです。
今回は「裏押さえ折れ」です。
まず裏押さえは何かという話ですが、

文字盤側の「リューズ周り」などと言ったりもしますが、針回しやリューズの押し引きに関わる歯車は地板から出ているピンにはまっているだけなので、裏押さえというパーツで押さえつけて外れないように固定しています。
裏押さえを外すとこのようになります。

歯車やバネなどはネジ留めされているわけではないので、このままだと外れやすいため、上に裏押さえをかぶせて外れにくくし、位置を固定しているということです。
この裏押さえはパーツを押さえつけるというだけでなく、リューズの押し引きの”クリック感”を作ってもいます。

裏押さえから出ている細長い部分が「裏押さえバネ」です。先端が山のように膨らんでいて、オシドリのピンと接しています。

リューズを押しこむとオシドリのピンが手前に、引くと奥へ動きますが、このときピンが裏押さえバネの山の頂上を行ったり来たりするので、この時にバネの力も相まってクリック感を生むことになります。
この部分が破損すると、時刻合わせをしようとリューズを0段から1段引きして針回しをしたときに、ちょっとした力で0段に戻ってしまい、不便になります。


この裏押さえバネは先端部分に力が掛かりますが、支えるのは根元の部分なので、一番負荷が掛かって折れるのは根元です。
ここがなぜ折れるかというと、ひとつには「金属疲労」があります。長年のリューズ操作によって応力が掛かり続けて亀裂が生じ、強度が落ちて破断します。これはリューズの押し引きという、金属そのものの強度よりも小さい負荷であっても、繰り返されれば破断に至ります。
ふたつ目には、ちょうどこのリューズ周りの部分は湿気やホコリが入りやすいのでサビやすく、サビは金属を腐食してボロボロにするため強度が落ちて破断するということもあります。

これは裏押さえではありませんが、パテックフィリップのCal.12-600ATに使われている、同じくリューズの押し引きのクリック感を作るパーツです。これも根元が折れていますよね。高級仕上げの施されている高品質なパテックフィリップでもパーツの破断は起こります。
ではどうしたら折らずに使うことができるのか?極論を言えば、着用せずに温度湿度の管理された保管容器にしまっておく…ということになります。
日常使用やたまに使うとなると時刻合わせのためにリューズ操作は必須ですので「折らずに使うにはどうしたらいいか」ということは現実的な考えではないでしょう。相手が金属疲労だと長期的には避けがたいわけですから。
つまり我々が気を付けるべき現実的なこととしてはリューズ周りをサビさせないということ。湿気や水入りに気を付けて使うのが良いでしょう。
この裏押さえが折れた場合どうしたら良いか?私たち修理屋のやることは2つありまして、
①世界各地のパーツ販売のサイトなどでムーブメントのキャリバーNo.とパーツ名称で純正品を探す。
②純正品がどうしても見つからない場合は元のパーツをトレースして別作する。
以上のことをします。
それぞれメリットとデメリットがありますが、
①の場合は純正品を使うことができるものの中古であり、既に劣化が進んでいる恐れがあります。
②の場合は新品の強度と遜色ないパーツを得ることができるものの、純正ではないということです。
内部ムーブメントのことを考えるとキャリバー専用の状態の良い純正品を使うことが望ましいのは言うまでもないのですが、、、
時計師の観点から言わせて頂くと、アンティーク時計の純正パーツは年々数が減ってきており探すのに時間が掛かり、しかも高価です。天真や巻き芯、そして裏押さえなどの消耗部分については別作対応でも良いのではないかと思います。
これに関しては私たちシェルマンではお客様と相談しながら進めていくのでご安心ください。
時計は時を刻み、かつ受け継がれていくものでありますので、何か不具合があった時には腕の良い職人に委ね、パーツ交換が必要な場合は純正か別作か、何がベストなのか職人とよく話をして修理を進める――
これがお気に入りの時計を元気よく長持ちさせる秘訣ではないかと思います。










