日々店頭に居るとお客様から、「アンティークウォッチの良さって何?」「現行の時計とアンティークウォッチってどっちが良いの?」、「アンティークウォッチの造りが良いって具体的にどういう事?」というような質問を頂きます(まぁ聞かれなくてもご説明させて頂くのが殆どなのですが)。
個人的な意見にはなりますが、正直言って一見の高級感は現行の時計の方が感じやすいです。我々が愛するヴィンテージパテックでさえも、”ただの古い時計”と思う人もいるかもしれません。
また、道具としての使い勝手も防水、耐磁とストレスフリーに使える現行に軍配が上がります。
「じゃあ一体全体アンティークウォッチって何が良いのよ?」って話なのですが、大まかではありますが私は店頭では以下の様にご説明させて頂く事が多いです。
現行(70年代以降)・・・”テクノロジーの進化により完成された最高品質の工業製品(ツール)“
アンティーク・・・”一流の職人のスキルによって完成された美術工芸品(アート)“
※アンティークに関しては所謂3大ブランドの造り込みを基準としてお話しさせて頂きます。
現行の時計は前述した通り、アンティークウォッチの時代と比べて非常にレベルの高い防水性や耐磁性等を実現しておりますが、これは(CNC)工作機械や金属の生成技術の進化に依るところが大きいと思います。
例えばケース素材のステンレススチールはアンティークウォッチの時代と比べて非常に硬く加工技術の難度は上がりますが、耐腐食性の高い316L、904L等を用いることが出来るまでにテクノロジーは発達しています。これらのステンレス素材は質感も向上していて、表面仕上げ等に手間を掛けることでステンレスという素材でありながらも”ラグジュアリー”を感じられるほどの輝きやしなやかな着け心地を生み出しています。
また耐傷性、耐衝撃等の面でも非常に優れており、正にデイリーユースには最適と言えるモノづくりを実現している、正にテクノロジーの極致と言えます。
アンティークの造り込みの良さは、見る側が気づく必要性が有ります。
これは時計ファンには見慣れたお馴染みのカラトラバのドルフィン針で、1960年代のものです。普遍的なデザインのため一見いつの時代のものも同じものに見えますが、実際には非常に肉厚で迫力が有ります。また、文字盤と風防の間のクリアランスも非常に狭く、只でさえ分厚い針を互いに干渉させずに立て付ける為には高度な技術を要します。
「別にクリアランスなんて余裕を持って作れば良いじゃないか」なんて声も聞こえてきそうですが、仮に同じサイズの時計でも、文字盤が風防側に近ければ近いほど時計は大きく見え、迫力が増します(直径僅か約30mmのRef.96がサイズ以上の大きさに見える要因の一つです)。
また、針や文字盤等のクリアランスが詰められていればいるほど余分な空間は消え、どの角度から見ても美しい姿を見せてくれます。
外装だけでなくムーブメントに関しても同様で、部品の一つ一つ職人が隅々まで磨き上げることで部品同士で生じる摩耗を最小限に留め、長期の使用に耐えうる造りと、弱いトルクでも最後まで精度を保ちながら動き続け、高精度を実現しています。
しかしこういった造り込みは機械で行うには限界が有り、どうしても人の手に頼る必要が有ります。我々が主に扱うアンティークウォッチの時代は時計の価格は非常に高価だったのに対して職人の賃金は非常に安く、一流のスキルを持った職人でさえ決して高くない賃金で働いていました。そのため現代では考えられない程の人的コストを掛けた、美術工芸品的な造りを極めたアートの様な時計の製造を行うことが可能だったのです。
確かに現行の時計と比べれば実用する際に気にかけて頂く点はありますが(特に汗や水!)、そもそも現行の時計でもドレスウォッチ自体がガシガシと雑に扱う時計では御座いませんので、日頃ドレスウォッチがお好きでお使い頂いている方であればあまりギャップを感じずにお使い頂けることでしょう。アンティークウォッチという小さな”アート”を腕に乗せて日々を楽しむ喜びは、そういった手間を掛けるだけの価値は確実に有ると私は思います。
※実際2年程前に私もオーデマを購入したのですが、未だに見る度ニヤニヤが止まりません(笑)
他にも”エイジング”、”ヴィンテージ感”、”手作りならではの温もり”等、アンティークウォッチならではの良さは沢山ありますが、この辺りはお客様の好みに依る部分が大きい(”良し悪し”というより”好き嫌い”)と思いますので今回は割愛させて頂きます。
結論としては現行もアンティークも同じ時計ではありますが、最早別ジャンルであり、”それぞれの良さ”、”それぞれの楽しみ方”が有ると思っています。
実際に使おうと思って買って頂いた美しい造りのアンティークウォッチも、お使いになる方の生活スタイルに合わず、結果家で眠るだけとなってしまってはお客様も時計もお互いに不幸です。
このようなお話を交えながら、お客様にとって最高の一本を選んで頂く為に、当店は気軽に身近にアンティークウォッチを触れて頂く場として今後も銀座に有り続けたいなと思っています。
銀座店 中野