「過去の遺産を、ただ当時の姿のまま静止させることだけが、本当に幸せなことなのだろうか?」
そんな問いを投げかけたくなる時計が、いま私の手元にあります。
ichigo_ichieブログ初執筆となる青山店の山本です。
今日はシェルマンで扱う時代の名品を、ある歴史の偉人の価値観と照らし合わせながら、その奥深い魅力に触れていこうと思います。
1. 1927年という時代を閉じ込めた「芸術品」
今回ご紹介するのは、1927年製造のパテック フィリップムーブメント。
ステップ状の非常に珍しい風防で覆われた十角形のダイヤル。それを眩いほどのダイヤモンドが囲む、アールデコスタイルの傑作です。

メインのダイヤモンドには、1919年に誕生し、当時最先端のカット技法であった「ラウンドブリリアントカット」があしらわれ、プラチナケースに施された無数のミルグレインが、光の粒を上品に引き立てます。

ケースサイドからバックに至るまでの繊細な装飾、そして花型のリューズの立体感と陰影。当時の職人の気概が宿る「芸術品」と言える作品でしょう。


2. 建築家カルロ・スカルパとの邂逅
しかし、この時計の真の魅力は、その美しさの「先」にあります。今回交わる歴史の偉人は、20世紀イタリアが誇る孤高の建築家、カルロ・スカルパ(1906-1978)です。その理由は、この時計のバックルにあります。この時計には、後年に付けたとされる18K製のDバックルが装着されています。

修復建築家として活躍したスカルパは、「100%当時のまま」に復元することを必ずしも良しとしませんでした。彼の代表的な作品の一つである、イタリア北部の「カステルヴェッキオ美術館」では、歴史的な痕跡と現代的な素材をあえて対比させることで、過去と現在が誠実に向き合い、互いを引き立て合う空間を創出しました。

3.「新旧の対話」が生まれる場所
ここで私がこの時計とスカルパから感じ取った価値観は、「新旧の対話」です。
過去の遺産をただ当時の姿のまま静止させるのではなく、あえて現代の解釈を寄り添わせることで、新旧と誠実な対話が生まれます。
この華奢な時計には、約100年の旅路の途中で、後年の時計師や現代の職人によって吹き込まれた「複数の時代の息吹」が重層的に宿っています。単なる経年変化ではなく、時代を超えた手仕事の交差。それはスカルパが建築で証明した「時の蓄積を愛でる」という美学に似たものを感じずにはいられません。

そんな時計を着けるのは、過去から未来へと繋がる物語の証人になるということなのではないでしょうか。
ぜひ店頭で、この「時代の重なり」を、その目と腕で感じてみてください。
青山店 山本
※カステルヴェッキオ美術館におけるスカルパの修復の詳細は、以下の動画が視覚的に非常にわかりやすく解説されています。











